2009/02/12(木)
「めざめれば魔女」 マーガレット・マーヒー
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ローラの幼い弟が突然病気になった。ローラはこれは一種ののろいによるものと直感し、魔女に変身して弟を救う決心をするが……。思春期の少女の微妙な心のゆらぎと非現実の出来事を並行させ見事に描いたカーネギー賞受賞作品。 この本にはたくさんの子どもたちが出てくるが、その誰よりも一番生々しく原初的で「子どもらしい」のは、カーモディ・ブラック(悪魔)だった。彼の最後の叫び(感覚的なよろこびを絶望的になってならべたてる)は、人があまり口にしない欲求―鮮やかな感覚への執着―を奔放に、なまなましく表現する。「たのむ、どうか……ああ、あんたにもわかってもらえさえしたら……。わしは人間の感覚というものにほれこんでしまったんだよ。それがどうやってもあきらめきれなかった。あんたにはあたりまえすぎて想像もつかんだろうが――そうさ、初めっからあるから想像することもできんのさ、あの触れたり味わったりするよろこびはな。皮膚だけで――そう、皮膚だけだってあの歓喜を――そう、あの歓喜を味わえるんだ!」(中略)「モモを食うだろうが。気からもぎ取ったばかりの、秋の陽にあたためられたやつをさ。実のしまったリンゴにかぶりつく時もいいねえ。ほれ、汁が口いっぱいにひろがってさ。あんなすばらしいことってあるかい。それから素肌に陽が当たる感じ。それから、塩、塩!」 「なんていいもんだろう、塩は。生みたての卵を四分ゆでて、そいつにかけてさ。それから、人間の汗をなめたときのあの感じも。」 ローラの弟を呪った悪魔は、それまでにも幾世紀にもわたって他人の命を盗んで人形を保ってながらえてきた。「感じること」があたりまえのことではないために、「感じること」へ執着もし、人形へもこだわり、そして自由に生きることができた。ローラにとって不気味でおそろい存在だったブラックとは、そういう存在だったのだ。 | | |