この日から、テレビにCMが入るようになっていた。ほんの少し、日常生活のリズムが帰ってきたな。ただ、まだ公共広告機構のCMが多いのは、やはり気遣いのようなものだろうか。まあともかくも、お帰り、日常のリズム。 (とはいえ、ホワイトデーのお祭り気分はどこぞかへ吹っ飛んでいる) 地震の日から3日間、テレビから目が離せなかった。ようやく目をひきはがして月曜日を迎えた。
九州というこの遠さのためだろうか。ちょっと不思議なことが起こる。ひとたびテレビから離れてしまうと、余震もないし、ほかほか陽気だし、猫が道でゴロゴロしてるし、あっという間にいつも通りの日々に戻ってしまうのだ。。けれどもどういう行動に出ても――笑っても、自転車をこいでも、空を見上げても、本を読んでいても――なんだかちょっと場違いな感じがする。このちょっとねじれた奇妙な状態は、いったいどうしたことだろう。
――大きな地震がたしかに北の方で起こっていて、私もどこかでその深刻さをぼんやりと知りながら、結局は目の前の毎日を過ごすしかない。この毎日は、これまでの毎日でやってきたこととまったく変わらないが、なのに何かが確かに違う。河合隼雄さんのはなしじゃないけど、「360度違う世界」だ。
1週間、2週間と経つうちに、ACの「ポポポポーン」以外のCMも増えてきた。新年度も迎えた。九州は桜が花盛りだ。晴れ晴れと空が青い。そんななかで、やっぱり「ちょっと」ねじれた奇妙な状態に、やっぱり首をかしげている。無言のうちに、目立たないままこの土地で進んでいく奇妙な「痛みわけ」(「共感」や「団結」とも違う)について、ぼんやりと考えている。