都の庭で、梅は静かに待っている。
―― 一声呼んでくれれば、飛んでいくのに。 雨の中、飛び梅を見てきた。さすが、梅の時期だけあって人が多い。突然の大雨に遭遇して、人ごみは困ったようにうねりを作っていた。
同行者と一緒に歩きながら、その飛梅の物語を話し(彼女は菅原道真のことも、飛び梅の物語のことも、あまり知らなかった)、そこからいろいろなことを話す。
自然と話の焦点は、菅原道真ではなく飛梅へと結ばれていく。
梅だよ、樹だよ。それが主の後を追っていくだなんて、狂気だねえ。
どうやって飛んだのだろう、走ったのだろうと思うと、こちらまで途方に暮れてくる。
細かい枝は風を切って震えただろうか、途中、折れたりしなかっただろうか。その痛みを思うと、心配だ。
そういう痛みも震えも覚悟して、梅は、突如とだえた主の声が再び自分を呼んでくれる瞬間を待っている。見えてくるようだ、都で待つ梅の姿が。
空を仰ぐ梅の枝に、白い雪が次々と降り立つ。まだ「主」の声は聞こえてこない。